一ヶ月ほどたって、われわれが提案した展望台の案は、おそらく、町長が期待していたものとは正反対のものであった。彼は模型を見るなり、ウーンと唸ったきりであった。われわれは山頂をもとの山の姿に復元する案を出したのである。その復元された山に、スリットのようにして展望台を切り込む案である。このスリットは、地上からはほとんど見えない。この展望台は見えない建築なのである。外観がなく、形がない。樹木の間から土に刻みこまれたスリットにわけ入り、大地に体ごと包まれる。
[参考情報]
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見上げれば四角く切り取られた瀬戸内海の青空。正面には天にのびる階段。その段を登りきると、多島海の上に、突然身体が投げ出されるという仕掛けである。通常人々が想像する塔のような展望台がオスの建築であるとしたならば、これは山に刻み込まれたメスの建築である。このメスの体内の大階段は、屋外劇場の客席でもある。二〇〇人が座れるように、階段の寸法を決定した。人口八〇〇〇人の町には文化ホールはない。芸能人が来れば、中学校の体育館が公演の場となる。古代ギリシヤの円形劇場のような断面形状をもつこの大階段は、どんな文化ホールにも負けない劇場になると説明して、「見えない建築」の案に唖然としている町長を説得しようと試みた。こんな展望台をたてると、二〇〇人の劇場というおまけがついてきますよという、わかりやすい話から始めたのである。なぜあんな美しい山に今さらモニュメントがいるんだ、あなたは自然破壊派だなどと相手を責める言い方をしてはいけない。いよいよ相手は防御的になって、物事は進まない。相手がのれる話題にひきこんで、同じ土俵に立つことから始めるのである。この説明でのミソは、例としたのがギリシヤの円形劇場であって、ローマ時代の円形劇場ではないというところである。
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